多神教の風土――モンスーン地帯

 そこで、こんどは日本や中国の風土を問題にしてみたいと思います。

 ご承知のように日本はモンスーン地帯に属しております。モンスーン地帯の特色の一つは、雨が夏季に集中して降ることであります。それは単に植物の繁茂に適しているばかりでなく、稲作を可能にしてくれるのであります。そのため日本民族は農耕一本やりで、過去に牧畜の経験がないという、世界でも珍しい民族であります。

 中国はどうかと申しますと、やはりモンスーン地帯に属しているのですが、北と南とではだいぶん事情が違っております。中国の北と南の分かれめになるところは、ちょうど黄河と揚子江の中間あたりでありまして、ここを境として気候や風俗人情がたいへん違ってくるのであります。南半分は気候なども日本に似ており、夏に多くの雨が降り、稲作の農業をやっているのであります。

 ところが黄河の流域を中心にした北半分は、モンスーン地帯にありながら雨が少なく、年間の雨量は六〇〇ミリくらいで、これはヨーロッパなみであります。世界でも半乾燥地域のうちに入りますから、この点だけから申しますと農業不適地ということになります。

 しかし、やはりモンスーン地帯に属しているために、その六〇〇ミリの雨が夏に集中して降るのであります。六、七、八の三ヵ月の雨量だけをみると、日本の雨量とほとんど変わりません。これがヨーロッパと華北の違うところで、それだけ農業にとっては有利になります。

 さらに都合のよいことは、華北は黄土の地帯なのでありますが、この黄土は無機の塩類を含んでおり、水量さえ適当にあれば、たいへん肥えた土になるわけであります。したがってヨーロッパに比べれば、はるかに農業に適した土地であるといえます。

 とはいえ、米を作るだけの雨量はありませんから、作物の種類はヨーロッパと同じく、麦や粟などの雑穀を作ることになります。そうすると、ヨーロッパほどではありませんがやはり牧畜の必要が起こってくるのであります。中華料理というのは要するに豚料理だという人もありますが、昔から日本人よりも動物の肉を食用にすることが多かったわけです。

 こういうわけで、中国の風土は全体としては農耕に適しているわけですが、部分的に牧畜的な要素が入りこんでいるのが実情であります。日本と中国との文化には、いろいろな点で違ったところがありますが、その一つの原因として、この牧畜的要素の有無ということが働いているかもしれないのであります。

 ところで日本や中国のような農業民族の古い信仰と申しますと、いわゆるアニミズムが支配的であります。つまり、いろいろな自然物のうちに霊魂ないし精霊の存在を認める信仰であります。農業民族は遊牧民族のように自然に対立するのではなく、自然のうちに溶けこむものでありますから、どうしてもそうなるのであります。

 その自然は、砂漠の自然が単調なのとは反対に、無限の多様性をもっておりますから、それぞれに精霊が宿るということからは、どうしても多神教になっていくことになります。

 それに遊牧民と違って、農民は定住性が強く、小さな部落単位が中心になり、閉鎖性が強いわけであります。したがって遊牧民のように戦闘を中心にした部族の統一への志向が

 

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